株券貸借取引 備忘録その4
株券貸借取引 その4
前回の続きです。なぜ、中小証券にとっては株券貸借取引が旨みをもつのか、その副次効果について、です。
株券を貸す側にとっては、株券を貸すことによる対価である貸借料が受け取れるというメリットが発生します。
しかし、担保を取らずに貸し出してしまうと、もし相手が経営破たんしてしまった場合、大変な損失となります。ですから、貸し出した株券に見合う担保として時価総額相当の担保をとります。
そして、この担保がなんと、現金なのです。株券を貸し出して現金に担保をとる。通常だとお金を借りて、その担保に有価証券や不動産を担保としてだすわけですが、この金融機関同士の取引である株券貸借取引の場合、担保が現金となるのです。
さて、その担保掛目ですが、なんと105%なんです。
つまり、たとえばですが、100億円相当のソフトバンクの株式を貸借に貸し出すと貸借量の他に、現金が105億円入ってくるのです。
この現金担保によって、ネット証券会社は、証券金融各社に預かってもらっている、顧客の信用取引で買いつけた銘柄を引き出して外資系証券各社に貸し出すことが可能となります。
中小証券会社は顧客の注文を証券金融会社につないで現金を融資してもらっているのです。その担保として証券金融各社に自社の顧客が信用取引で買い付けた銘柄をあずけているのです。ただし、現金に対しては金利がつきます。
問題はその金利水準です!
ますは日本証券金融の金利です。これらの金利は証券会社各社に適用されます。
2010年11月22日からは0.77%
2009年1月29日から0.97%
2009年の変更前は1.11%でした。
過去にさかのぼるほど高くなります。
そして、現況の比較(2013年12月時点)ですが、
日本証券金融の0.77%というのがいうなれば仕入れ値です。
そこにいくら上乗せして販売するか?
☆SBI証券は、2.8%(5億円以上の大口は2.28%)
☆楽天証券は、2.85%(優遇レートは2.28%)
☆マネックス証券は2.8%
☆カブドットコム証券は2.98%(優遇レートは2.06%)
☆立花証券は2.5%
☆HS証券はたて玉(つまり時価総額)3千万以上で 1.7%
100億円のたて玉があればたとえばSBI証券では100億円×2.8%-100億円×0.77%=2.03億円が年間の金利収入となるのです!
さて、話を戻します。
証券会社と外資系金融機関との間での株券貸借取引の担保として預かった現金には金利が発生するという話ですが、その金利はどの程度???
それは日銀無担保コールレート翌日物(O/N)金利です。
新聞でも昔はよく見られました。ゼロ金利にしても景気があがらなくなって下げるものがなくなってきたときに日銀はこのレートを調節することで景気が浮揚するはずだと考え調整したのでした。
ちなみに昨日2013年12月3日のそれは0,041%です。
つまり、信用取引の顧客がソフトバンク100億円相当、信用取引で買いたてたとします。
なにもしなければ日本証券金融に株券は行き、取り次いだ証券会社は金利の鞘を得ることになります。たとえば、SBI証券であれば、2.8-0.77=2.03%つまり2億円の金利収入です。
ですが、これを外資系証券に貸し出すと…
たとえば、あまり借り入れるニーズがなくて、貸し出す際の料率が0.1%だとしても100億円の0.1%つまり一千万円の貸借料を外資系証券から受け取れます。
さらに、ただし、彼らからは105億円の現金をうけとるので105億円の現金と引き換えに金利0.041%を払います。
差額は日本証券金融が7千7百万円(0.77%)
外資が4百3万5千円(0.041%)
その差たるや7千3百万円!
ものすごい支払い金利節約になると思いませんか?
貸借料をプラスすると8千3百万円の効果です。
新しい商品を開発したわけでも大口顧客を開拓したわけでもないのに…、です。
仮に貸借料がゼロでもこれだけの支払い金利節約効果があるのです。
問題は調達コストにあります。日証金という組織は、証券市場そのものといってもいい、上場会社とは思えない公的性格をもった企業で、詳細を触れると非常にながくなってしまいます。ですからここでは断片的にふれるのみですが、彼らはどこで、証券会社に貸し出す資金を調達してくるのでしょうか?
それが先ほどの日銀無担保コールレートで資金をやり取りする市場です。日銀からたくさんの天下りを受け入れている3社ある短資会社(セントラル短資、上田八木短資、東京短資。海外との比較で言えばキャンターフィッツジェラルド、ガーバン、タレット・プレボンなどがそれに対応します。)がその役を独占的に担っています。
短資会社では資金を運用したい金融機関と調達したい金融機関のマッチングを行います。そして、証券会社は日本の商慣習では、ながいこと、金融機関とはみなされてきませんでした。つまり、ここでは資金の調達ができなかったのです。
日本証券金融は日証金信託銀行をつくりました。そこが資金を調達して、信用取引の融資の元締めとして取引先の証券会社に融資していました(野村證券など超大手は別)。
もちろん、担保にとっている有価証券の価値は日々変動します。株価が下がれば、融資に必要な金額も下がるのですから証券会社に返金します。上がれば、証券会社に追加で資金を貸し出します。当然、証券会社はその先の個人投資家におなじアクションをおこします。これが「追証」です。毎日、この資金の出し入れを金融機関では行っています。このことを値洗いと呼んでいます。
ちょっと横道にそれますが、デリバティブの発達などでいろいろな取引が投資銀行ではおこなれています。バックオフィスの人員は多かれ少なかれ、商品はちがえどもこの「値洗い」に関連する業務に従事していることが非常に多いといってよいでしょう。
さて、私も現役時代はこの取引を執拗に拡大していきました。金融機関もこのスキームの安全性に気づいて、通常の融資よりも貸借取引のスキームを用いた融資を希望するようになってきたからです。そりゃあそうですよね。安全ですから。
ところが、そんなところにおきたのリーマンショックでした。
最後はリーマンショックの対応で天国と地獄をみたケースをLC(letter of credit)の例とともにお話させてくださいね。